我らのガボン日記 ー臨床検査技師編ー

青年海外協力隊としてガボンで輸血医療向上を目指す臨床検査技師の日記

ガボン国立輸血センター⑨-払い出し部門 -

ずいぶんお久しぶりになってしまいました。

2020年7月8日、青年海外協力隊の2年間の任期を終えました。まさかこんな形で終えると思っていなかった最後の3ヶ月。いろいろな思いが込み上げて、こうではなかった世界に思いをはせ、悔しさと向き合った時間となりました。

でも、まずはブログを最後まで書いていきます。

 

 

5月のことになりますが、大変光栄なことに、アフリカ情報サイトAll About Africaに私の記事を掲載させていただきました。ガボン献血と医療事情にフォーカスを当てたもので、私の想いもこもった熱い記事になりました。

ぜひご覧いただけたら嬉しいです。

all-about-africa.com

 

 

さて今回は、これまで説明した行程を経て完成した血液製剤がどうやって患者の元へと届くのかをご紹介します。軽いカルチャーショックを受けますよきっと。

少々長めです。

 

 

では行きましょう。

 

 

製剤が作られたあと、その手作りされたての製剤は、製造スペースのすぐ隣の部屋に持っていかれます。

f:id:maaaai0519:20200726220147j:image

ここの冷蔵庫または冷凍庫で一時的に保管されます。

 

ちなみに、この部屋にある冷蔵庫たちは、家庭用冷蔵庫ではなく、製剤保管に適した唯一の血液専用冷蔵庫たちです。

f:id:maaaai0519:20200726220241j:image

日本で輸血製剤を扱う方々には馴染みのあるこの冷蔵庫!!

 

ここで保管された製剤は、血液型と感染症の検査の結果が出るのを待ち、結果が出たらすぐにラベルが貼られます。

f:id:maaaai0519:20200726220403j:image

(これはHIV陽性で廃棄される製剤のラベル)

 

日本では血液型ごとに色分けされていますが、ここは白一色です。ちなみに、「日本は血液型ごと色が違うよ」と教えたら、「遠くから見ても一瞬で分かるね!」とみんな大感動していました。

 

正式に製剤としてデビューしたものは、一番大きい冷蔵庫と冷凍庫に保管されます。

f:id:maaaai0519:20200726220703j:image

↑冷蔵庫
f:id:maaaai0519:20200726220707j:image

↑冷凍庫

この冷蔵庫の赤血球製剤が、首都とその近郊地域の全在庫になります。

中を開けるとスッカスカのときが多く、在庫不足は深刻な問題になっています。

よって、常に枯渇状態なので製造されてから1週間前後でほぼすべての製剤が世に出ていきます。

凄いときは採血された当日に出ていくので、白血球や梅毒が心配です。

 

 

このあとこの製剤はどのようにして患者さんに輸血されていくのかを説明していきます。

 

 

まずは日本の輸血の流れを。

日本では、病院に来た患者さんを検査して輸血が必要だと判断されると、医師が輸血を検査部や輸血部にオーダーして、輸血検査用の採血を看護師さんがして、オーダーを受けた検査技師はその患者さんの血液型や不規則抗体というものを検査します。そして日本赤十字社から購入して納品された血液製剤と患者さんの血液との適合性を検査して、適合すると、その製剤を看護師や医師に渡して、患者さんへの輸血がいざ実施されます。そして全ての治療が終了後、医療費を支払います

多少の違いはあるものの、ある程度の規模のある病院では、通常の早さで行えばオーダーから輸血開始まで1時間ほどで済みます。もちろん患者さんは輸血を待つだけでいいのです。

 

 

日本では当たり前のこの流れ、ガボン(アフリカ各国)では違うのです。

 

 

私が知っているガボンのスタンダードな輸血までの流れを説明します。

① 患者が病院へ行くと医師は血液検査の処方箋を書いて患者に渡し、患者は診療費を支払います。

② 患者はその処方箋を持って検査可能な施設へと行き支払いをします。大学病院や大きめの病院では自施設で検査室を備えているため院内の移動で済みますが、個人病院の場合は検査専門の施設へ行きます。

③ そこで採血をした後、結果が出るのを待ちますが、結果が出るまでが長い!

日本では15分もかからない検査に、ガボンではほとんどの施設で半日~1日以上かかってやっと結果が渡されます。

④ 待ちに待った結果を受けとると、それを持って病院へ戻り医師に結果を見せます。

⑤ 医師が輸血が必要だと判断すると、次は血液型を検査するための血液検査の処方箋を書いて渡します。

⑥ それを持って再び患者は検査へと向かい、会計を済ませます。

⑦ 検査室で採血をして、再び検査結果を待ちます。ちなみにどこの施設でも血液型はスライド法の「オモテ検査」のみで判定しています。

⑧ 血液型の検査結果を受けとると、それを持って再び病院へ戻り、医師に結果を渡します。

⑨ その結果を見て、医師は患者の血液型を記載した輸血製剤の処方箋を書いて患者に渡します。

⑩ 患者はその処方箋を持って輸血センターへ行きます。この時点で、患者本人よりは患者の家族が処方箋を持ってくることが多くなります。でも、患者本人が輸血センターへ持ってくることももちろんあります。

f:id:maaaai0519:20200726221116j:image

(輸血センターの昔の血液製剤払い出しの入り口、今は改装されて綺麗です)

⑪ 処方箋と採血検体を輸血センターの受付に出すと、患者(家族)は待合室で待つか、以前紹介した「1バッグにつき2人のドナーを連れてくる」という半強制的な献血制度で献血をしながら待ちます。

f:id:maaaai0519:20200727210945j:image

(最近改装された、綺麗な受付)

⑫ さあ、ここからが日本でいう検査部や輸血部の仕事の始まりです。

f:id:maaaai0519:20200726222010j:image

(検査のスペース。狭めです)

輸血センター内のDistribution(直訳で配布という意味)で、受けとった採血検体の血液型を検査技師が検査します。

処方箋に書いてある血液型をそのまま採用するのではなく、センターの技師が検査をして血液型を確認するのです。素晴らしい。

ちなみにここでも血液型はオモテ試験のみです。さらにRhのフェノタイプを検査して、センター内の輸血システムに登録されている血液型と一致しているかを確認後、同じ血液型、同じRhフェノタイプの赤血球製剤を選択します。

そのあとは、血液製剤の血球と患者の血漿を反応させて交差試験を行います。ちなみに、IgGのカードを使って検査をしています。(検査詳細等はこの後ご紹介)

ここで適合という結果が出ると、輸血システムで製剤を患者に割り付けて、製剤を払い出す準備をします。そして、会計の伝票を検査技師が作成します。

⑬ 会計を受けとった受付の担当者は、患者(家族)に支払いを求めます。病院が公立か私立か、ガボン国民皆保険に入っているか否か、特定疾患なのか、妊婦なのか新生児なのか、こういった細かい区分で値段が変わってきます。決して安くはありません。結構高いです。

⑭ 支払った後、患者(家族)は受付に「保冷のバッグ(ジップロックの保冷バージョンの様なもの)」を渡します。もしこれを持っていない場合、近くの薬局に行って購入する必要があります。輸血センターで販売すればいいのに、何かあるらしく、センター内では販売できないらしいです。

⑮ 検査技師は保冷バッグに血液製剤を入れ、適合証明書類と共に患者(家族)へ渡します。輸血センター内での待ち時間は約1~2時間ほどです。

⑯ 受けとった患者(家族)は、薬局へ行き、輸血するのに必要な物品を購入します。

⑰ 製剤と物品を持って病院へ戻ります。

⑰ 血液製剤を受けとった看護師や医師は、準備をして輸血を開始します。

 

さあ、いかがでしょう。なかなか衝撃ですよね。大きい病院や頻繁に輸血をしているようなエイズ専門病院では1日前後で輸血が出来ますが、そうでなければ2~3日はかかる大掛かりな医療になります。輸血をする理由は、マラリアエイズ、がんによる貧血や、手術などが多く、ヘモグロビンが5g/dLを切っている患者が多いので、患者本人はかなりしんどい状況で待たされることになります。さらに、料金はすべて前払い制必要物品も自分で購入するため、お金が無ければそこで終了になります。厳しい現実です。

 

地味に怖いのが、やっと製剤を受けとった後の患者や家族の行方で、病院まで直接行っているのか、どこかに寄って行っているのか、家に帰って冷蔵庫かどこかに保管してから翌日病院へ行っているのか、これについては謎です。

このことについて調査しようとしていましたが、急な帰国で叶いませんでした。かなり悔しい。

 

この輸血体制が良くないと理解している輸血センター側は多くの改善に取り組んでいます。

・患者本人や家族ではなく、医療施設の職員が輸血製剤を取りに来るように呼び掛けている

・輸血の緊急度を医師に記載させ、払い出すスピードを3段階に分けて調整する

・込み合う時間帯は2人の技師体制で払い出すまでの時間を短縮している(これは私が強く強く意見して実現しました)。

・保冷バッグに製剤を入れて移動させる(以前は、直接手渡しだったのです)

・輸血センターの分所を大学病院に設置して、患者の負担を軽減させている。

 

こういった取り組みを行い、徐々に輸血医療体制が現在進行形で改善されています。しかし、この一連の流れの改善はまだまだ必須であり、伸び代もかなりある領域だと思います。ここを改善できれば、救命率は上がる、そう感じています。

ちなみに、ITに力を入れているアフリカのルワンダではドローンによる輸血製剤の運搬が行われています。おもしろい記事です👇。

japan.cnet.com

 

さて、日本でいうと病院内の輸血部にあたるDistributionという部門についてもう少しだけ説明します。

製造部門とこのDistributionは隣同士のため、頻繁に私はこの部屋に出入りして様子を見つつ地道に改善活動を行っていました。

日本と違い「スピード」は重視されないため、のんびりおしゃべりしながらゆっくりと働く技師さんが多い中、この部門の長であるエブラ(製造部門の長でもあり、よき理解者)は作業効率の改善を試みていました。そこに私も加わり、色々と意見を出していく中で「2人体制」という結論に至りました。でも、やはり2人が一緒だとおしゃべりが進むため、部屋を分けて2人体制になったのです。そしてある日突然始まったのが、2つ目の部屋を作る工事!面白いので写真付で紹介します笑

f:id:maaaai0519:20200726222722j:image

↑壁が急に無くなった日


f:id:maaaai0519:20200726222717j:image

↑作業机まで壊された日


f:id:maaaai0519:20200726222737j:image

↑レンガの壁が出来た日(ちょっとズレたらしく、後日再び並び替え)


f:id:maaaai0519:20200726222729j:image

↑壁が綺麗になってきた日


f:id:maaaai0519:20200726222725j:image

↑普通にビビるほど綺麗になった日


f:id:maaaai0519:20200726222733j:image

↑物品が置かれ、検査室になった日

 

f:id:maaaai0519:20200726223401j:image

↑更に壁と扉がついた日


f:id:maaaai0519:20200726223404j:image

↑壁がスクリーンになった日

 

すべて手作業で、まるで3匹の子ぶたのレンガの家を作る光景でした。

 

次に私はここで行っている検査の改善を試みました。

まずは血液型。血液型はスライド法でオモテ検査のみの判定のため、ウラ試験の導入もかなり推しましたが、これについては失敗に終わりました。

却下の理由は、時間とお金がかかるから。血球試薬を買うお金と、不慣れな検査でかかる時間はガボン人には難しいようです。

次にRhフェノタイプ。これは輸血後の患者さんにも毎回検査していました。一生変わらないし、輸血後は正しく判定できないし、試薬の無駄ということを1年近く各技師に説明していったら「初回検査のみ」という方法に変更になりました。勝利です。コストと時間の削減に貢献しました。

最後は交差試験。どうしようもなく雑な手技だったので、量を守ることなど基本的なところから地道に指導していきました。しかし、センター外観の工事に予算が消費され、検査用のIgGカードが買えなくなり、患者には秘密で半年ほど交差試験をせずに「適合」として払い出していました。完全な、詐欺です。検査レベルを上げようとしても結局全ては金で振り回される。悔しいですが、これが途上国での活動の現実です。

 

 

以上、このような流れでガボンでは輸血が行われているという紹介でした。

なかなか衝撃な流れでしたよね?

 

 

任期は終えましたが、まだ伝えたいことがあるので、これからももう少し書いていきます!ぜひぜひお付き合いください。

 

 

次回は、広報部門と野外での出張採血部門についてご紹介します。