我らのガボン日記 ー臨床検査技師編ー

青年海外協力隊としてガボンで輸血医療向上を目指す臨床検査技師の日記

ガボン国立輸血センター⑧ -製造部門part4-

ご無沙汰してしまいましたが、元気です。

日本の気温に慣れずに布団を被って過ごしていますが、夏日の日はるんるんで動いています。

 

JICAからの発表で、任期が残り3ヶ月ほどの私たちは任国に戻ることなく、日本で任期満了を迎えることが正式に決まりました。そしてまだ半年以上任期のある隊員は7月になったら再派遣するか・派遣終了にするかの発表をするそうです。早い段階で「全員解散」とした方が前に進みやすいよねと仲間たちと話していますが、未曾有の事態にJICAも対応に困っているのがよく分かります。

そして、全隊員の現地の住居解約と荷物の撤去作業が現地にいるスタッフによって始まりました。元々、数か月後には戻る雰囲気だったので家に荷物を多く残してきた人がほとんどです。これをリモートで「これは捨てて、これは残して、これは送って」とやるのはもう…大変な作業のようです。

ちなみに私は、狂ったようなに半泣きで大片付けをしたことにより、所長による私の部屋の撤去作業は15分で済んだようです。最短記録、狙えるでしょう。

 

 

では、もう輸血センターにはいませんが、

今回はガボンの凍結血漿製剤についてご紹介します。

 

 

まずは凍結血漿製剤とは...

血漿には、凝固因子という血を止めるのに必要な物質が沢山含まれています。

でもこれは時間の経過でフレッシュさを失ってしまうので、採血した後になるべく早く処理して冷凍させて新鮮な状態で保管します。冷凍食品的な感じです。

 

日本では通称FFPといわれる新鮮凍結血漿があります。

名前の通り、新鮮な状態で凍結させた血漿の製剤です。

凍った状態で保管され、使うときに解凍して輸血します。

量の違いによって120ml、240ml、480mlの3種類あり、量が多いほど値段も高くなります。

これももちろん、日本赤十字社が製造しています。

 

ではガボンはどうか。

まず名前は、PFC:Plasma Frais Congeléといいます。

 

そして見た目ですが、

f:id:maaaai0519:20200517123045j:image

こんな感じです。凍っている写真は撮り逃しました....

 

元の採血量がバラバラなので、もちろん血漿の量もバラバラです。

日本と同じく、きちんと凍結して保存しています。

期限は1年間です。

 

作り方は、赤血球製剤のときに説明した方法で作ります。

maaaai0519.hatenablog.com

採血 → 遠心 → 分離 → 凍結です。

必ず当日採血の製剤のみで製造し、一晩冷蔵庫で置いたものからは作ることはありません。まさに新鮮な血漿です。

 

この製剤に対して私は何をしたかと言いますと、

まずは見た目の改善です。

f:id:maaaai0519:20200517123048j:image

以前のものの写真ですが、赤血球が混ざって赤いものが多くありました。

まずはこんなに混ざっていたら、免疫反応を起こすかもしれないから使うのは良くないことを周知しました。以前勤めていた弘前大学病院の大先輩の研究が私の説得に役に立ちました。

 

そして次は作り方の改善

全血のバッグの上に残りがちな血球を、遠心前に叩いてはがすことで大幅に改善されました。

そして感動したのがブレーキの設定。

血小板製造の行程を理解した技師さん(前回話したセネガル料理を用意してくれていた私のママ的存在)が、「境目を綺麗にするにはブレーキを弱めよう」と提案してくれたのです。大感動。血小板が生んだ、私たちの大成長です。

 

これらの改善により製造部門にふらっと来た他部門の人が、「Très beau(美しい)」と見入るほどに変わりました。

 

そしてもう一つ変えたのが保存の仕方。

以前は

f:id:maaaai0519:20200517123055j:image

...雑。

 

これでは扱いにくくてぶつけて割れる可能性があります。

日本では箱に入れて割れやすい製剤を守って、形も綺麗にして凍結させていますが、ガボンではさすがにそれは無理なので綺麗に並べるようにさせました。

f:id:maaaai0519:20200517123052j:image

 

 

こうやって、凍結血漿製剤を改良しました。

 

 

ここからは少々の心残りを。

この部門では在庫の量に合わせて製造するという発想が無く、O型だけが大量になったり、保管する場所も無いくらいに大量になったりということがよくありました。

これを何とか上手く調整する方法がないか考え、まずは在庫管理の担当者へ「何型が足りなくて、何型は製造しなくてもいいか」という情報を週に数回聞いて製造していました。血小板もこういう方法で血液型を選んで作っていました。

これをもっと簡単に、誰でも出来る方法で、目で見て分かる形で需要と供給のバランスを管理できないかと考えを練っていました。ホワイトボードとマグネットで…など考えているうちに帰国になってしまったので叶わずじまいです。これが心残りです。

 

 

さて次は、私がガボンで初めて製造した人間になった「クリオプレシピテート」についてです。

ちなみにこれは、私がガボンで初めてやった活動で、初期(2018年12月)の出来事です。

 

 

この製剤(通称クリオ)は、日本ではある程度の設備のある病院が凍結血漿製剤から調整する製剤です。

簡単に説明すると、血を止めるのに必要な凝固因子を濃縮させた製剤です。手術や出産で大量出血が起きた際に、これを沢山輸血することで一気に血を止める物質の濃度を高めて血を止めるのです。

赤十字社が製造しないものなので、各病院の輸血部が数年前からこぞって調整し始めた製剤です。もちろん私が以前勤めていた弘前大学病院でも調整していて、私も作っていました。

 

今思うと、このクリオの調製経験があったからこそ、ガボンでの全製剤の調製方法の改良が出来たのだと思います。物の扱い方、考え方、安全性、全てにおいて弘前での経験が役に立ちました。クリオを作らないと決めた赤十字社、作った弘大両者に感謝しかありません。(日赤さん、嫌味じゃないです!!)

 

さてこのクリオですが、輸血センターに来て4ヶ月ほどのときに話をしていたら「クリオって知ってる?コートジボワールにはあるらしいけど、ガボンには無いんだよね~。あれがあれば妊婦につかえるのにね」と技師さんが言い始めたのです。

びっくり仰天!ガボンでもクリオは知られているのか!!!!

「私、クリオ作れるよ!」といったら向こうもびっくり仰天!!!

ここから私は、ガボンでも調整できるかを挑戦し始めました。

 

しかし、大きな問題がありました。

日本で絶対使っていた無菌接合装置(輸血用のバッグのチューブとチューブをくっつけて開通させる超凄い機械)が無いのです。

これが無かったら安全に血漿を別のバッグに移せません。

 

やっぱり無理かな~と考えていた時、ある技師さんが、

「メイ!クリオ作るならトリプル(3つ繋がっている)のバッグでいいよね?」と聞いてきたのです。

そのときようやく気付きました。「ここは日本じゃない、クリオの元になる血漿を製造するのは赤十字社じゃなく私たちだ!」と。

このときから頭は日本からガボンにシフトした気がします。

採血されたときからバッグが繋がっているのだから機械を使わなくてもそれを活かせばいいと、恥ずかしながらその時ようやく気付きました。

 

ここから作業は一気に進みました。工程表を作り、製造部門長のエブラと作業を始めました。

1日目は通常通りに始めに説明した凍結血漿製剤を作製(空になったバックを付けたまま)

2日目は低温解凍

f:id:maaaai0519:20200517124446j:image

(よ〜く見ると、なんかもや〜とした白いものみえますよね。これが凝固因子たちの塊)

3日目はまた凍結させる

4日目はまた低温解凍

5日目に遠心して調製、凍結させて完成

 

こうして、ガボンで初めてクリオプレシピテートが誕生しました。

f:id:maaaai0519:20200517124443j:image

(下の方の白いものが凝固因子たち)

 

f:id:maaaai0519:20200517130754j:image

(凍らせるとこうなる)

 

見たことも聞いたことも無い製造方法に不思議な顔を終始見せながら様子を見ていたエブラですが、いざ完成すると嬉しそうに眺めていました。

他の技師さんや医師たちも「メイがクリオを作った!!」とテンション高めに喜んでくれました。

その嬉しそうな姿をみて私も嬉しくなったことをよく覚えています。

 

そして、この出来事が両者にとって大きい意味をもち、ガボン人は私を信頼し、私はこの国で活動することの意味を知った気がします。

いいスタートを切れました。

 

 

しかしこのクリオ、喜びだけでなく国際協力の難しさを教えてくれました。

 

 

これで大量出血から妊婦の命を守れる!と希望を持ったものの、残念ながらまだ使用には至っていないのです。

使い方を知っている医療者がいないのです。

「クリオプレシピテート」という名前は知っていても、適切な使い方は知らないし誰も教えてくれる人がいないのです。

 

じゃああなたが教えればいいじゃんと思うかもしれませんが、明確に説明し質問に答えるほどのフランス語力はありませんし、なにより責任が持てません。

輸血センターの技師や医師には、説明をしましたが、これを実際の医療現場で使うにはハードルはまだまだ高いようです。保健省へも働きかけをしましたが、動きはありませんでした。誰か知識と権力を持った医師や看護師が加わらない限り、このクリオが日の出を見る日はなさそうです。

 

 

どんなにいいものを用意しても、それを扱える人間がいなければただのものになってしまう。

 

 

痛感しました… 難しい、国際協力。

 

 

以上、なんだか暗くなってしまいましたがこれが私がガボンで作ってきた凍結血漿製剤2つです。

 

 

次回は、こうやって作られた製剤がどうやって患者の元へと届くかをご説明します。

地味に衝撃的ですよ。