我らのガボン日記 ー臨床検査技師編ー

青年海外協力隊としてガボンで輸血医療向上を目指す臨床検査技師の日記

ガボン国立輸血センター⑤-製造部門part1-

今回からは私の主な活動領域である製造部門についてお話します。

 

 

それはそれは多くの時間をここで費やしていて、一番詳しい部門なので複数回にわたって書いていきます。

 

 

今回は、設備や勤務体制などを説明します。

 

--- 今後の予定 ---

①(今回) 設備

② 赤血球製剤

③ 血小板製剤

④ 凍結血漿、クリオ

⑤ 製造されたあとの作業などなど

 

ではいきましょう!

 

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ここが製造部門(Production)です

 

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採血の部屋から徒歩3秒ほどで着きます。早い!

ちなみにこの部屋、血液が多いので蚊が多いです。

 

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タイルのテーブルで作業しますが、まるで台所のような感じです。

よくこのテーブルの上をアリたちが普通に歩いています。

先日は蚊の死骸を一生懸命に運ぶアリが製剤の上を歩いていました。日本ではおそらく一生見ないシチュエーションだと思います。

血液製剤を作っているとは思えぬ環境ですが、これが普通です。

 

 

ここで作っている血液製剤(PSL:Produits Sanguines Labiles)は主に3つ

・赤血球製剤(CGR : Concentré de Globules Rouges、日本はRBC

・血小板製剤(CSP : Concentré Standard de Plaquettes、日本はPC)

・凍結血漿製剤(PFC : Plasma Frais Congelé、日本はFFP

 

 

ちなみに赤血球製剤は遠心するかしないかでさらに2種類に分かれます。え、遠心しない?と思ったあなた、そうです、しないのです。これについては次回説明します。

 

 

これら3種類の製剤の他に私が作製した「クリオプレシピテート(Cryoprécipité)」というフィブリノゲン&凝固因子濃縮製剤もあります。いつでも出せるように準備は整えていますが、まだ使用にまでは至っていません。これについても後日お話します。

 

 

採血に使っているバッグ(poche)は、

 

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(遠心後の血液)

 

写真のトリプルバッグ(抗凝固剤入りのバッグ、保存液入りバッグ、空のバッグ)が主なバッグですが、

予算が無くなると、ダブルバッグ(抗凝固剤+保存液入りのバッグ、空のバッグ)、そして最悪のときはシングル(抗凝固剤+保存液入りのバッグのみ)になります。

 

 

シングルでの製造を始めてみたときは衝撃でした。鳥肌が立つくらいに恐怖の方法で製剤を作ります。これについては次回お話します。覚悟あれ。

 

 

ちなみにこのバッグ、以前は医療メーカー大手、日本が誇るTERUMOさんのバッグでした。しかし、数か月前に中国のメーカーのバッグに変わりました。安いのでしょう。

そしてその品質の違いに呆れるほどに驚かされました。

バッグの色が違ったり、チューブがふさがっていたり、均一とは言えない粗悪な品質です。それだけではありません、バッグの素材が弱く、当たり所が悪いと遠心の力により穴が開くのです!衝撃です。

 

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(血が苦手な方ごめんなさい! 遠心後に破損したバッグです)

 

そしてもう一つ、凝血塊(血の塊)ができやすいのです。しかもかなりデカい塊です。

バッグを変えてから、輸血中にフィルターが詰まったといって返却される製剤が急に増え、この1ヶ月ほど地道に1つ1つバッグを確認したところ6%ほどの割合で製剤の中に塊が含まれることが分かりました。塊のある製剤は使用できないので捨てるしかありません。この問題、深刻です。

                     

              

これが日本と中国の違い、とみんなで嘆いています。TERUMOのバッグが恋しいです。

 

 

製造の話に戻ります。

 

 

製造の為にここにある機械は、

大型冷却遠心機 1台

セパレーター(圧力で分けるやつ) 複数台

チューブクランプ(挟むやつ) 複数個

シーラー(チューブを熱で閉じて切れるようにする機械) 1台

電子はかり 1台

です。

 

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(絶対にゼロgにならない電子はかりとTERUMOのシーラー)

 

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(たまにハサミも混ざっている、チューブクランプ)

 

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(血液を圧で押して分離させるセパレーター)

 

 

以前は遠心機が2台でしたが、私が一時帰国から戻ってきたら壊れていました。温度関係の何かが壊れたようです。ということで現在は1台のみでどうにかやっています。もしこの1台も壊れたら、血小板と血漿は作製できなくなります。終わりです。いかにこの大型冷却遠心機が大事かを上層部に説明していますが、購入の気配はありません。遠心機よりも、外観の改装の方が大事なようです。正直、腹が立ちます。

 

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 (お願いだから壊れないでほしい遠心機)

 

貴重なこの1台がどうか壊れないように、大事に大事に使うようにしています。

平行に設置させたり、固定を徹底したり、汚れはふき取ったり、日本人にとっては当たり前のことだけど、ガボン人にとっては当たり前じゃないことを一緒にやって機械を長い間使えるように意識を植え込んでいます。遠心機から変な音がしたらみんな「どうしたどうした」と様子を確認するようになったので、いいぞみんな!と嬉しくなります。

 

 

このような感じで必要最小限、というより足りない環境で製造しています。

 

 

この部門に所属する検査技師は9人、学生が2人です。

平日の8時から16時、休憩なしで働き続けます。といっても途中で消えてしばらくして戻って来る技師もいます(笑)

 

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 (セネガル仕入れたアクセサリーを広げて試す女性陣、業務中)

 

この製造部門の長(エブラ)が、以前血小板の回ときに紹介したチーム血小板の一人で、とても仕事にも勉強にも熱心な人で、日本人なみに働く超真面目な人です。他の技師からの信頼も厚い人です。私が日本に一時帰国する際に、色んな人がスマホだのPCだの買ってきてと頼むなか(もちろん買いません)、彼は「フランス語か英語の輸血の教科書があったら買ってきて」とお願いしてきました。熱心すぎて感動です。

エブラが長だからこそ、今の製造部門に足りないことを彼自身が理解していて、私と日本の知識と技術を受け入れてくれ、改善を進めてくれます。私がこの製造部門に重点を置いているのは、最もここが問題山積だったということと、エブラが長で彼を慕う技師が多いからこそ最も改善が進められると思ったからです。いい仲間に恵まれました。

 

 

ややまとまりの無い回となりましたが、こういう場所で毎日働いています。

自然と熱くなれる、腹も立つけど笑い合える、家族のような人たちの揃った、ガボンで一番好きな場所です。

 

f:id:maaaai0519:20191216062838j:plain(育て甲斐のある学生たちと私) 

 

 

次回は、赤血球製剤についてお話します。