我らのガボン日記 ー臨床検査技師編ー

青年海外協力隊としてガボンで輸血医療向上を目指す臨床検査技師の日記

ガボン国立輸血センター⑥-製造部門part2-

2020年、あけましておめでとうございます。


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(ガボンの初日の出)

 

ガボンに正月はないので、1月1日だけ休んで2日から普通に働きました。

センター内ではHappy new yearの意味の「Bonne année」が飛び交い、賑やかな雰囲気が1週間くらい続きました。

そんな賑やかな様子と裏腹にセンター恒例の「突然の人事異動」が行われ、ことごとく私と仲のいい人たちが解雇されました。

一緒に仕事を進めていた人も解雇されたので喪失感が半端なく、ガボンに失望する年明けとなりました。

ちなみに、人事に関する問題は他の隊員も苦労しています。日本なら訴訟レベルの人事が、ここでは普通に行われていることに毎回衝撃を受けてしまいます。

 

 

 

さて、今回は私の主な活動領域である製造部門で作っている赤血球製剤についてお話します。いつもより長いです。

 

 

 

そもそも赤血球製剤とはなにかというと、文字通り「赤血球」が多く含まれている製剤のことで、ざっくりいうと貧血を改善させるためのものです。

ドラマで良く見る赤い製剤です。

日本赤十字社の製剤はRed Blood Cellの頭文字をとって「RBC」と言われます。

日本ではいくつか種類があり、200mlの献血で出来るものがRBCの1単位、400mlの献血で出来るものがRBCの2単位と分けられています。

さらに放射線照射をしている製材であれば、「Ir」というIrradiated(放射線照射された)という単語も組み合わせて表示されます。

つまり、放射線照射された赤血球製剤の2単位ならば、「Ir-RBC-LR2」(LRはLeucocyte Reduced、白血球が除去されたという意味)と言われます。

 

しっかりしている医療ドラマでは、「RBC6単位用意して」などとしっかり単位数まで言うので、少々感動します。コードブルーとコウノドリ、最高。

 

 

 

さて、ガボンの赤血球製剤はどんな感じかというと…

まずは外見

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こんな感じです。

 

量はバッグの重さを含めて250~400g(バッグは約30g)。以前話した通り、看護師の採血量が一定でないので製剤の重さもバラバラです。

 

 

 

では、この製剤がどうやって作られているか、少々の覚悟を持って読み進めてください。

 

 

 

まず、採血した血液(全血)からどうやって赤血球を分けているのかという説明をしておきます。

 

血液の中には赤血球などの血球の他にも、血漿という黄色い液体の成分があります。そしてそれぞれの成分に重さ(比重)があって、遠心分離という高速で回転させる方法で、重い血球は下へ、軽い血漿は上にという方に分けていきます。

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 (遠心が強いと血小板や白血球は下の赤血球層に入り込み、逆に弱いと赤血球が血漿の層に混ざり込む、などなど遠心条件で状態が変わります)

 

血液製剤を作るときは、この原理を上手く利用して血漿を別のバッグに移して分けていきます。

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(上部にある血漿(黄色い成分)を圧力で他のバッグに移している様子)

 

 

ここガボンでの作り方には、大きく分けると2つの方法に分けられます。

 

1つめは、「遠心して分離させる方法」

先程説明したように、遠心をして分ける方法で、一般的には最もスタンダードな方法です。日本もこの方法で作っています。

赤血球製剤のみ、赤血球製剤+血小板製剤、赤血球製剤+血漿製剤の3パターンにより作られています。ちなみにこの「赤血球のみ」という方法は私が提案して始めました(後半でまた出てくるので覚えといてください)。

 

2つめは、「一晩おいて自然沈下させる方法」

採血したバッグを一晩冷蔵庫に入れておいて、自然に血球と血漿を分離させて翌朝血漿を分離させる方法です。

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(一晩置いたので、黄色い成分と赤い成分が分かれています)

 

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(一晩置く冷蔵庫。これは、スーパーにあるドリンクとかを入れる冷蔵庫!!!!)

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(霜が、すごい)

 

医療関係者のみなさん、「えーーーー!血液専用じゃない冷蔵庫!しかも遠心しない?」と驚きですよね。

輸血製剤は温度管理がとても厳しく、日本では血液専用の冷蔵庫で保管する必要があるのですが、ここガボンではそんな贅沢なことは言ってられません。買えないものは買えないのです。

遠心しないのもかなり衝撃ですが、これがガボンではスタンダードな方法です。特に地方では、遠心機がないのでこれしか方法がありません。

 

この一晩置いた血液から、血漿を分離させて赤血球製剤を作ります。

でもやはり自然沈下では、綺麗に分かれないので、血漿が混ざってしまいます。

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ほぼ全血じゃん…

 

そもそも、なぜ遠心しないかというと、

・遠心すると白血球も多く含まれてしまう(遠心条件を調節するという考えがそもそもない)

・遠心するのが面倒

・時間がかかる

・疲れる

・昔からそうしているから

・遠心機が足りない(現在1台)

 

良い製剤のために労力と時間を費やすという考えはほぼありませんでした。(←過去形に注目!)

 

 

次に説明するのは、製剤を作るのに欠かせない採血バッグの種類についてです。

前回少し言及しましたがセンターでは3つのタイプのバッグを使用しています。

 

①トリプルバッグ

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3つのバッグが繋がっているタイプです。ガボンで扱っているもので一番いい種類です。

お金があるときはこれを使用しています。

 

②ダブルバッグ

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2つのバッグが繋がっているタイプです。ちょっと予算が厳しいときに使っています。

 

③シングルバッグ

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バッグが一つのみのタイプです。最悪です。お金が無いときにこれを使用します。写真のバッグはカメルーン産です。カメルーンのこの頑張りはガボンには無いもので偉いし尊敬しますが、質が...最悪...。

 

このように、バッグのタイプでセンターのお金事情が分かるという仕組みになっています。(笑)

ちなみにシングルになるときは大抵、センター外観の改装工事をしています。

 

 

輸血製剤は閉鎖回路(一度も外の空気に触れないこと)で作るのがスタンダードです。よってトリプルやダブルでは、繋がっているバッグに移せばいいので一度も空気に触れずに赤血球製剤を作ることができます。

 

ではシングルバッグはどうか…

 

覚悟あれ。(血が苦手な人は見ない方がいいです)

 

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チューブをはさみで切り、不要な分の血液を水道ヘ流しています。

 

初めて見たときは言葉を失い、鳥肌が立ちました。

閉鎖回路を見事に逸脱、はさみは使いまわし、血液は飛び散る、作業台は血だらけ、そして水道の血液は一体この後どう処理されているのか…

 

私もこの恐怖の作業に加わるのですが(周りの技師さんの配慮で私は一番危険な作業からは外れています)、血が白衣に飛び散って緊張状態が続くので、疲労度がとてつもないです。この国の感染症陽性率も考えると、精神の消耗も激しいです。

 

ちなみに地方では、はさみで切って水道ヘ流すこの方法で作っています。

 

 

これが、アフリカの輸血です。

 

 

そして、医療関係者の方はお気づきになった方も多いと思います。

「白血球は…?」

そうです、白血球除去は行っていません。

1年ほど前に「もうそろそろ除去フィルター付きのバッグになるよ」と言っていましたが、まだなっていません。

「もうそろそろ」の定義を教えてほしいくらいですが、金銭的な問題から恐らくこれからもずっと無理だと思います。

 

なぜ白血球が危険なのか、こちらをどうぞ👇

輸血後GVHD|非溶血性副作用|輸血の副作用|医薬品情報|日本赤十字社

 

このセンターには放射線照射装置はないので、全ての製剤は白血球入りの製剤になります。白血球は患者に危険だということはもちろん輸血センターの医師や検査技師は知っています。でもどうしようもありません。

 

輸血後GVHDの頻度を知りたいと思い、質問したのですが頻度は分かりませんでした。

なぜでしょう。

それは、この国の医療レベルがそこまで追いついていないからです。「輸血後に患者さんが何か変な容体になった」となってもそれが「輸血が原因」「これはGVHDだ」とはなりません。患者に適合する血液型の選択すら怪しい医師が多いので、GVHDが頭にない医師も大勢いるはずです。もし、これはひょっとして…と気づいたとしても、避けることが出来なかった病気、神が選んだことだからとして受け入れてしまいます。それが、この国の医療の現実です。

 

放射線照射装置があればいいのにと思うときもありましたが、この国(途上国全般)では、ない方が安全だと今は思います。機械の定期メンテナンスが出来ない国においては、放射線を扱う装置はあまりにも危険すぎるからです。なんだか機械の調子がおかしいからと無理やり開いて中身をいじってみる人たち、使えなくなったからと無造作に機械を投げ捨てる(本当に投げます)人たちには、放射線照射装置は殺人的です。昔インドで、売られた放射線照射装置を解体した業者が被ばくして死亡する事件がありましたが、なぜそうなったのか今なら容易に状況が理解できます。

 

10年近くも前ですがとても記憶に残っている事件👇

www.afpbb.com

 

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 (センター内の故障した機械を投げる部屋、ここに入るたびに悲しくなります。)

 

こういった状況を踏まえ、遠心の条件を工夫することで赤血球製剤に入っている白血球の数を少なくする製剤を作り始めました。前半で述べた「赤血球製剤のみ」はこのことです。完全に除去することは不可能だけど、数は減らしたいという思いで作り始めました。

効果はあるのか不明ですが、技師たちの間ではかなり高評価をしている製剤です。

 

こういった工夫や、血小板製剤の大幅改良など、私が1年近くこの製造部門に加入し活動を始めたことにより、少しずつ技師たちの意識が変わり始めています。

ガボンでもやれば改善できるという前向きな気持ちが生まれ、どうやれば改良できるという方法を自分たちで考えるようになってきたのです。

そして、一緒に良い製剤をつくって実物を見ることで、「良いもの」と「悪いもの」が経験的に身につき始め、悪いものを減らそうという意識が生まれ始めています。

これにより「一晩おいて自然沈下させる製剤」は良い品質ではないという認識が生まれ、なるべく遠心して作るようになっています。

大きな変化です。 

 

今まで遠心の条件(回転数や時間などの設定)や温度など、深く考えることがなかった技師たちが、「この条件にすれば綺麗に分離できる」や「この温度は血球には良くない」など自然と話し合いが起きるようになって、工夫する姿勢がみられるようになったのはとても嬉しく、感動してしまいます。しかも、技師たちがよく働くようになりました。これはとてつもない大変化です。

 

「技術改良を通して、人を成長させている」

 

最近それをよく感じます。

 

そしてきっと、彼らと一緒にいることで私も成長させてもらっている、そんな気がします。

製造部門の人たちと一緒に働いていると、ガボンに来た意味があったと感じます。

 

 

シングルバッグで地獄絵図の日々なると無性に日本に帰りたくなりますけどね(笑)

 

 

以上、長くなりましたが「赤血球製剤」についてでした。

 

 

同期ブログが更新されました!今回は、亀を探す話です👇

gabonjocv2018.hatenablog.com