ガボン国立輸血センター⑦-製造部門part3-
ご無沙汰してしまいました。
ランバレネで運動会をしてきました!後日書きますね~
今回は血小板製剤についてお話します。
これに関しては、私の中心的な活動なので活動の内容と共に説明していきます。
話せば長く熱くなるので頑張って簡潔にまとめます!
血小板製剤とは、名前の通り血小板がたくさん入っている製剤です。
血小板は出血した時に傷口をふさいで止血してくれる大事な細胞で、手術や外傷、血液の病気で血小板が少なくなっているときに輸血するものです。
まず日本や先進国ではこの製剤をどうやって作っているかというと、血小板製剤は成分採血で製造しています。
献血したことがある方はイメージしやすいと思いますが、成分採血とは一度取り出した血液をドナーのすぐそばで機械で処理し、欲しい成分(つまり血小板)を血液バッグへ入れ、それ以外の成分(赤血球など)は体へ戻すという方法です。医療技術って凄い。
この方法により、効率的にたくさんの血小板をバッグに入れることができるので、濃度の濃い良い製剤が出来上がります。
日本では容量によって細かく単位が分けられていて、単位が大きくなるほど容量も多くなり、入っている血小板も多くなり、値段も高くなります。1袋で家賃を払えるくらい、高いです。
でもガボンにはそんなに素晴らしい技術はありません。正確には、機械を買えない、買ったところで使いこなせない、消耗品を継続的に買えない、メンテナンスできない、壊れたら終了、つまり使い捨てなので、継続的に使うことはほぼ不可能なのです。以前使ったことがあるそうですが、もはや機械は化石になっています。
ではどうやって作っているかというと、ガボンの血小板製剤は全血から調製されます。
採血した血液全体から血小板を集めて「血小板製剤」を作るのです。日本も昔、30年くらい前?はこの方法でした。
(この採血した血液(全血)から、血小板を集めていきます)
この全血から血小板をいかに安全に、うまく、多く集めるかというのが私の主な活動でした。
結論から行きましょう。
今の血小板製剤は、こんな感じです。
この中に血小板がいるのです。(原物はきちんとスワーリングが確認できます)
ここに至るまで、それはそれは多くの努力を積み重ねてきました。
経過をたどっていきます。
始まりは2019年の2月。
以前の血小板製剤はどこからどうみても、血小板が入っているとは言えない製剤でした。
(以前の血小板の保管の様子)
なぜなら、
・血小板は低温に弱いのに、4℃で遠心
・しかもその遠心はかなり強い&時間が長いのでほぼすべての血小板が赤血球の層に沈んでしまう
・遠心後は何となく血小板がありそうなところを取り出す
・もちろん血小板の存在を確認できるスワーリング(光にかざすとふわ~っと渦巻き状に血小板が見える現象)は皆無
いったい誰がどうやって始めたのか、そもそも何を考えてこの方法で作っているのか謎の状態でした。
そこで血小板製剤の調整方法の大幅改良を始めたのです。
しかし私は病院に勤めていた技師。血小板製剤は赤十字社から買う立場で、毎日見ていたけど、作ったことはありません。
ということで、どうやって製造するのかという情報収集から始まりました。
青森県の赤十字社のMRさんに連絡したり、論文検索したり、ひたすら考えたり、日本のベテラン技師さんたちに聞いたり、出来る限り多くの情報を集めながら改良を続けていきました。
以前、その経緯を書いていました。
要約すると、
試行錯誤を繰り返し、日本語英語フランス語あらゆる言語で調べ、夢の中でも血小板を作っているくらいに没頭し、確実に以前よりもいい製剤に近づいていったのですが、
どうしても解決できない問題がありました。
それは、
1.遠心しても1回目の遠心で綺麗に分離しない(赤血球が混じる)ので、赤い色の製剤になってしまう
2.血小板の塊が発生する(血小板にストレス与えすぎてしまっている)
でした。
困った私は決断しました。
「日本へ帰って、その道のプロに聞いてみよう」
2019年5月、日本に一時帰国し、輸血学会でガボンでの活動の中間報告をし、会場にいる血小板関係のプロの皆さんを見つけて話を聞いていきました。
本当に本当に多くの技師さん、先生方、企業の皆さん、赤十字の職員の皆さんにアドバイスと応援のお言葉を頂くことができました。日本の輸血とそれに関わる全ての人の素晴らしさを心底実感した日々でした。
ガボンに戻ってから、日本で得た情報をもとに改良を続けていくと、
あることが重要な決め手になることが判明しました。
それは、「ブレーキ」
ん?ブレーキ?車?え?という感じですよね。
実は遠心機にはブレーキが存在します。
回転を止めるのに、どれくらいの力をかけて止めていくかというのが遠心機のブレーキの役割です。
今まではこれを最大の値で設定していました。
しかし、ある教授と東北ブロック血液センターさんの助言でブレーキゼロ(つまり自然に止まるのを待つ)条件でやってみると、なんとまあ!驚くほど美しく赤血球と血漿が分かれたのです。感動でした。
そしてブレーキを無くしたことにより血小板へのストレスも軽減されて、製造後に頻発していた塊もほとんど形成されなくなったのです。
ここから一気に改良は進みました。
1回目と2回目の遠心の条件、活性化した血小板を休ませる時間、細かい手技、これらを微調整し遂に自信をもって送り出せる製剤が6月に完成しました。
全血からどのくらい上手く集められているのかを知るために、測定して計算してみたところ、回収率は約20%でした。一袋におおよそ、2.3×1010個の血小板が入っている感じです。ちなみに改良前の回収率は、1%以下でした(笑)。血小板がほぼ入っていない製剤を「血小板だよ」と売っていたと思うと詐欺ですね。
嬉しいのは、血小板を使った医者から「輸血後に患者の血小板数の上りが良くなった」という言葉を貰うことです。
もう一つ。
今までハサミでチューブを切って、不要な血液を水道に流して製剤を作ることがここの技師たちにとって当たり前だったのですが、粘り強くその危険性(製剤が汚染されること、作業する技師も危険なこと)を伝えた結果、この方法は良くないことだという認識が生まれました。そして、一度もハサミを使わずに血小板製剤を作ることを当たり前にするようになったのです。これも大きな進歩です。
ここまで一緒に作業し続けたチーム血小板、協力してくださった日本の皆さんには感謝してもしきれません。
日本とガボンのみんなで作り上げた血小板製剤だと思っています。
今は、どの技師も上手く作れるように細かく技術指導をしたり、なぜこうしないといけないのかなどを説明したり、地道に地道にこの新しい製造方法が定着するために活動しています。
また、ガボン人は出来ないことも「出来る、簡単だ」と平気で言うので、本当に血小板を作れるのか信用できないので、定期的に私が不在の日をつくり、彼らのみで作業をさせて翌日実物をみて彼らの技術評価をしています。協力隊の皆さん、この方法はかなりオススメです。
しかし、以前も述べましたが人事異動や解雇が多いので、他の技師に教えられるくらい上手になった技師が違う部門へ行ってしまい、新しい技師が来てはまた行っての繰り返しで技術の定着はかなり難しいです。私が帰国しても、製造できる技師が異動しても、変わらず作れるように製造マニュアルを作りましたが、マニュアルを読まないガボン人が今のように製造できるかは正直期待できません。国際協力の限界を感じますが、多少今よりは質が落ちても以前の血小板のようになることはないと思うので、良しとしています。
最後にどうやって血小板を作っているのか大まかに説明して終わります。
これが私たちの努力の結晶だと思いながらご覧くださいませ
1.採血されたての血液バッグ(全血)を1時間立てて静置
2.軽遠心(条件は22℃、2000rpm、8min、ブレーキゼロ)
3.分離
血小板が豊富な血漿の出来上がりです
4.重遠心(22℃、3000rpm、5min、中等度ブレーキ)
5.分離(一袋70mlくらい)
6.1時間以上の静置
7.振盪保存
こうやってみると簡単に見えますが、この工程の中に細かいテクニックを組み込むことで綺麗な製剤を作ることができます。
がんばりました。
(一番上手く血小板を作れる技師さんが他の技師さんに教えている様子)
ということで、血小板製剤でした!
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